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武田薬品工業のM&A!

皆さん、おはようございます!
いまの経済を見ていますと、ともすると人よりお金を優先しているように感じます。
行き過ぎた資本主義社会と言われる今日この頃ですが、本来は貨幣資本より先に人的資本が存在するものであり、人間の持つ英知が明日を切り拓くのではないでしょうか。



クリストフ・ウェバー社長率いる武田薬品工業が2020年3月期の最終損益(=国際会計基準)が3830億円の赤字になる見通しであることを発表しました。前期の2019年3月期は1091億円の黒字でしたが、アイルランド製薬大手シャイアーの買収にともなう費用が重荷になっているようです。


今後、シャイアーが手掛ける有望な新薬候補を計画通りに販売につなげること、およびシャイアーとの統合によるコスト削減効果を出して行くことが、株式市場での評価を高める条件になると考えられています。一方、シャイアーの7兆円による買収により膨れ上がった純有利子負債5兆4000億円の削減も急がれます。


既に純有利子負債の削減に向けて最大で1兆1000億円規模の事業売却を予定していることを公表しています。武田薬品工業としては、がん、中枢神経、消化器系疾患の3領域とワクチンを中核事業に、これにシャイアー買収で得た希少疾患と血液製剤を含めた6分野を新たな中核事業として位置付けています。


この中核事業から外れる非中核事業の切り離しを進める中で、武田薬品工業はシャイアーが保有するドライアイの眼科用治療薬シードラ事業をスイスのノバルティスに約5800億円で売却することを同時に発表しています。同事業は2018年には世界で約400億円の売上を計上しています。


売却対象となるのは、製品の他に米国とカナダを拠点とする従業員400人もノバルティスに移籍する予定です。この他、武田薬品工業が販売してきた手術用のパッチ剤タコシルを米ジョンソン・エンド・ジョンソンの手術用機器子会社であるエチコン社に約440億円で売却することも発表しています。


更に次の売却候補として、ウェバー社長はシャイアーが保有する消化器疾患治療薬SHP647の売却にまで言及しています。具体的な売却先や時期などについてのコメントは避けていますが、武田薬品工業が持つ消化器系治療薬と競合するため、欧州規制当局から独占禁止法の観点から売却するよう勧告を受けていたことによります。


この様に事業を売り買いすることが事業会社としてのあるべき姿なのでしょうか。皆さんも、直感的に違和感を覚えるのではないでしょうか。事業会社とは、やはり日夜技術革新に勤しみ、自助努力により新たな付加価値を創出してこそ企業としての価値を見い出せるものだと思います。売上や株価というものはその結果として後から付いてくるものです。


製薬会社においては、新薬の技術開発が事業のコアコンピタンス(=自社の核となる技術や特色)です。製薬業界の再編が進み企業規模が巨大になり、その新薬の開発がなかなか進まなくなっている事情はあるのでしょうが、それ自体、規模の経済を追求したが為の弊害であると思います。


一時期、米国の製薬会社の旺盛なM&Aを総称してファイザーモデルという言葉がもてはやされたことがあります。地道に研究開発を行うよりも、新薬の特許を持つ製薬会社を矢継ぎ早に買収する方が売上も利益も高めることができ、新薬開発リスクを回避できるという経済合理性から多くの製薬会社がM&Aに高じていた時代があります。


しかし、このファイザーモデルも結果的には自社の研究開発機能を弱める結果となり、今では製薬業界では企業を買収するM&Aに疑問符が付くようになっています。むしろ、新薬毎に共同開発や共同販売する業務提携の方が主流となっています。製薬会社にとっての生命線は新薬の開発力です。それを弱体化させては本末転倒と言わざるを得ません。


今回の武田薬品工業におけるシャイアーの買収においても、両社が持つ新薬の技術開発力を融合させることが出来なければ意味がありません。単に両社が持つ新薬が重複しているか否かで事業を再編するのではなく、その根底にある基礎技術の段階で相互補完効果を発揮できるか否かが鍵となるであろうことは言うまでもありません。


企業にとって不可欠なナレッジ(=企業などの組織にとって有益な知識・経験・ノウハウなど付加価値のある情報)は、人が持つ知(=暗黙知を含む)と知を融合させ顕在化させることにより初めて新たな知識、ノウハウとして創出され企業に根付いて行くものです。資本の論理や経済合理性といったものは目先の価値基準に過ぎないと言えるでしょう。


今日もありがとうございます!
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