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買収のれん!

皆さん、おはようございます!
M&Aの歴史を振り返りますと、既に欧米で鉄道会社の買収が行われるようになってから100年以上の時間を経ています。そんなM&Aも、いまでは経営戦略の一つとして市民権を得て活況を帯びていますが、やはり行き過ぎた資本の論理はいけません。



世界企業の貸借対照表に計上されている買収のれんの総額が2018年度は前年度より8%増え、780兆円に上るという調査資料があります。日本のGDP(=国内総生産)が約500兆円ですから、その金額の大きさに驚きを隠せません。それだけ世界で大型のM&A(=合併と買収)を行う企業が増えていることを示しています。


買収のれんとは、M&Aの際に買収先企業の純資産額を上回って支払った代金を意味します。企業の経済価値は、上場企業であれば株式市場における株式「時価」総額となりますが、貸借対照表に「簿価」で記載された純資産額と一致することはなく、業績の良い企業であればこの簿価純資産額を上回るのが一般的です。


この株式時価総額と簿価純資産額の差額は、買収先企業のブランド力や技術力などの見えない資産(=無形資産)として理解されています。最近のM&A見ていますと、買収企業はこの株式時価総額で相手先企業を買収できることはなく、通常は株式時価総額に一定の価格を上乗せ(=買収プレミアム)して初めて手にすることが出来ます。


買収プレミアムは、単に株式市場で株式を売買するのとは異なり、相手先企業を掌握する経営権を取得することになるので、その経営権取得プレミアムであるという考え方がファイナンスの教科書では説明されています。しかし、実際は競りと同様に、買収交渉の過程で、売り手と買い手の力関係で買収価格がつり上がって行ったものと言えます。


正に、世界的な企業のカネ余り現象を背景として、カネにものを言わせて企業を買収することが世界中で横行していると見ることが出来ます。一企業の立場から資本の論理で事業を捉えていきますと、新たに事業を創出するよりも企業買収した方が手っ取り早く自らの企業を拡大させることが出来ますので、経済合理性に叶っているのでしょう。


しかし、買収のれんの会計上の取り扱いは、日本の場合は最長20年間に渡り均等額を償却費として費用計上する必要があります。余りにも巨額の買収のれんですと、買収後の業績にボディーブローが効いてくることになります。それを避けるために、償却を行わなくて済む欧米の会計基準に変更する企業も出て来る位ですから本末転倒です。


その欧米の会計基準であっても、買収先の業績が悪化した時にまとめて減価した買収のれんを損失として計上する必要が出て来ます。何れにしましても、企業を買収することを目的とするがあまり必要以上に高い価格で買収してしまいますと、その後の業績が悪化してしまい足下をすくわれることになることだけは留意が必要です。


平成の30年間で時価総額の伸び率が最も大きかった企業として日本電産が挙げられます。自動車やロボットなどのモーター製造を手掛ける同社ですが、過去に63件ものM&Aを実行しているにも関わらず、今までに大きな損失を計上したことのないM&Aに非常に長けた企業ということが出来ます。


企業買収にあたっては、高値づかみすることのない様に用心に用心を重ねた上で買収契約書にサインをするそうです。産業用モーターという非常にニッチな分野で世界の市場シェアを握り、30年間で時価総額の伸び率を69倍にまで高めています。多くの世界の名だたる企業が買収のれんにより業績を悪化させている中で非常に稀有な存在と言えます。


きっと日本電産の場合、買収先企業の業績が芳しくないモーター事業を買収し、買収後に事業を再生し、日本電産グループ内各事業との相互補完効果をきちんと出していることから業績が好調なんだと思います。それに比べますと、世の中で行われている一般的なM&Aは、買収することが目的化してしまい荒っぽい取引であると言えるでしょう。


やはり事業会社がM&Aを行うのであれば、自らの事業に必要な事業資源、機能を充分に取り込んで、事業の成長に繋げて行かなければなりません。ただ単に、企業規模を嵩上げするためのM&Aは、遅かれ早かれ買収のれんが足枷となって、本業の業績悪化を余儀なくすることは間違いありません。景気が下降しはじめた時にそれが露呈するでしょう。


これからの時代、M&Aよりも事業提携や事業連携といったアライアンスが増えていきます。その様な時代には、いままでの様な荒っぽい嵩上げ型のM&Aは鳴りを潜めることになると思います。本業を真に変革するのであれば、売上や利益を追い求めるのではなく、事業を成長させるために必要な核となる事業要素を取り込む必要があるからです。


今日もありがとうございます!
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